指定の小説に適した書体を選択し一冊の本を作る試み
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『装丁道場〜28人がデザインする「吾輩は猫である」』(グラフィック社編集部編、グラフィック社、2010年)は、デザイン誌『デザインのひきだし』の連載をまとめたものだ。
夏目漱石の『吾輩は猫である』という文学作品を、「定価1,400円で四六判の上製本をつくりたい」という想定で、28人のブックデザイナーそれぞれが新しくデザインして新刊の単行本を作るという試みである。実際にサンプルとして、本というかたちに仕上げている。
その中には、当然のことながら、本文書体の選択と活字組版も含まれている。詳細なデータは記載されていないが、本文の写真が掲載されており、おぼろげに伺い知ることはできる。キャプションに簡単な説明が書かれているものもある。
用紙、印刷、製本までを総合したすべてがタイポグラフィであり、本来、本文書体も本全体の中で選択され位置付けられるものであろう。ついつい派手な装丁に目がいきがちであるが、本文書体と活字組版にも注意が払われているはずである。
この本は『吾輩は猫である』を課題としていたが、違う小説だとどのような本文書体を選択するのだろうか。大変興味深い試みである。