いろいろな文章に適した書体を選択する試み
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『日本のタイポグラフィ』(佐藤敬之輔著、紀伊國屋書店、1972年)に、「文体にふさわしい書体」というページがある。三島由紀夫著『文章読本』から、古典文学(漢文系、和文系)、現代文学(小説、評論、詩歌)を代表する16編の文章を選び、「文体にふさわしい書体」を割り当てている。
1『和漢朗詠集』
太教科書体、24Q長体1、字間送り32H、行間送り44H
2『源氏物語(若菜)』
旧教科書体、18Q正体、ベタ組、行間送り32H
3『平家物語』
宋朝体、18Q長体1、ベタ組、行間送り44H
4『曾根崎心中』
特太明朝体+アンチック体(KE)
岩田細明朝体、18Q正体、字間送り19H、行間送り32H
LM-KS、18Q正体、ベタ組、行間送り32H
7『暗夜行路』(志賀直哉)
MM-OKL、18Q長体1、ベタ組、行間送り30H
8『悪魔』(谷崎潤一郎)
MM-NKL、18Q平体1、ベタ組、行間送り32H
9『花は勁し』(岡本かの子)
MM+タイポス37、16Q長体1、ベタ組、行間送り26H
10『しぐれ』(川端康成)
LM-KL、16Q長体1、ベタ組、行間送り26H
11『モオツァルト』(小林秀雄)=評論
LM+タイポス35、16Q正体、ベタ組、行間送り28H
12『万葉集』
旧教科書体、20Q長体1、ベタ組、行間送り32H
13『一握の砂』(石川啄木)
MG、20Q正体、ベタ組、行間送り32H
14『ナポレオンと田蟲』(横光利一)
MM+OH No.2、16Q正体、ベタ組、行間送り28H
15『ドルジェル伯の舞踏会』(ラディゲ/生島遼一訳)
LG+じゅん、16Q正体、ベタ組、行間送り28H
宋朝体(モリサワ)、20Q正体、ベタ組、行間送り35H※表記を少し整理した
1972年発行の書物であり、株式会社写研で組版を行なっていることもあってか、写研の写植書体が中心になっている。当時はまだ書体数が少なかったので、平体、長体の使用が目立つ。
デジタルタイプになり本文書体がさらに豊富になった現在において、同じような試みを行うとどうなるのだろうか。興味深いところである。