活字書体をつかう

Blog版『活字書体の花舞台』/『活字書体の夢芝居』/『活字書体の星桟敷』

Note 1A 書字とタイポグラフィの間①――木版と銅版

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現代に生きる木版印刷

木版印刷とは、の板に文章または絵を彫って版を作る、凸版印刷の一種である。中国では雕版印刷というそうだ。

木版印刷そのものはタイポグラフィではない。とはいえ中国では、宋朝体元朝体、明朝体清朝体など木版から多くの活字書体を生み出してきた。活字書体の源泉なのである。

2016年1月11日(月曜日)、午後から姜尋さんの木版印刷の工房「煮雨山房芸術文化有限公司」を訪問した。

まずは版木彫刻の現場の見学から。薄い紙に文字を書いて、それを裏返しにして貼っていた。彫刻刀で版木を彫っている作業を見せてもらった。彫り終えた行と、これから彫る行の違いがよくわかる。作業中の版木は梨だそうだ。硬い木なので彫刻するには力が要る。

この版木に墨や絵の具などを塗り、紙をあてて上から馬楝(ばれん)で摺って制作する。日本の馬楝は芯を竹の皮で包んだものだが、中国では狭く長い刷毛または櫛形刷毛で摺る。木版印刷の版木と、その印刷物を見せてもらった。彫りが深いのは、印刷部数を多くするためとのことだ。

別室には伝統的な線装(袋とじ)による装幀の工房があり、数人の職人さんが作業をしていた。

煮雨山房で製作された木版印刷の書物のひとつ、ノーベル文学賞作家の莫言氏の著書『大風』を見せていただいた。ところどころに剪紙があしらわれている。この本の複雑な綴じ方は姜さんの創案によるものだそうだ。帙も凝りに凝っていた。姜さんは、このほかにも次々に版木や書物を出してきて説明してくれた。

 

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 銅版印刷の書体

15世紀にヴェネツィアの書記官が公的な記録に用いていた「チャンセリー・バスタルダ」と呼ばれる筆記書体は印刷用活字書体のイタリック体として発展していったが、その一方で個人的で優美な曲線への欲求は、銅版印刷へとむかった。

銅版印刷とは、銅製の一枚板を使った凹版印刷の一種である。活字版が陽刻・凸状の版になるのにたいし、凹版は陰刻・凹状の版になる。その素材として銅が多く使われたために、凹版印刷のことを一般的には銅版印刷と呼んでいる。

金属板にじかに彫刻する方法(エングレーヴィング)での銅版印刷は1420年から1430年ごろにかけて、ドイツとイタリアではじめておこなわれた。17世紀以降には腐食銅製技法(エッチング)が主流になったが、フランス宮廷ではエングレーヴィングを銅版印刷の唯一の製作技法と認めていた。

 

私が「日本カリグラフィー協会CLA」(注1)の通信教育講座「カリグラフィー講座」(注2)を受講したのは、1991年頃だった。

「カリグラフィー講座」の教科書は「イタリック体」、「ブラックレター・ゴシック体」、「カッパープレート体」の3冊とガイドブックがあり、いろいろなペン先と、ペン軸2種、インク4色がセットになっていた。このうちの「カッパープレート体」というのが、銅版印刷の書体だ。

初級コースの講座の受講期間は6カ月だった。3書体それぞれに添削テストがあり、最後にまとめて認定テストを提出するシステムだ。全部で10回の課題を提出することになっていた。

注1:現在は「日本カリグラフィースクール」(運営は株式会社カリグラフィー・ライフ・アソシエイション)になっています。

注2:講座の内容はほぼ同じですが「本格入門コース」という講座名になっています。

私は初級コースだったが、続けていれば、中級コース、上級コースへと進むことになっていた。上級コースでは「アンシャル体とハーフアンシャル体」「フラクチュア体」「ローマンキャピタル体とスモールレター」を学習することになっていた。