活字書体をつかう

Blog版『活字書体の花舞台』/『活字書体の夢芝居』/『活字書体の星桟敷』

環境・ディスプレイ・サイン部門 entry No.1–3

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2014年

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魚沼市立伊米ヶ崎小学校創立140周年記念 校歌記念碑

デザイン・写真=杉下城司

新潟県魚沼市立伊米ヶ崎小学校が、明治7年7月10日に仮開校してから2014年で創立140周年を迎え、10月25日に創立140周年記念式典が開催された。あわせて、創立140周年を記念して建立された「校歌記念碑」の除幕式が行われた。その「校歌記念碑」に、漢字書体「龍爪」や「蛍雪」、和字書体「ふみて」を使っていただいている。デザインは杉下城司さん。

「校歌記念碑」は3枚仕立ての碑である。

第1碑の表面には、「伊米ヶ崎小学校創立百四十周年記念 校歌記念碑」の文字が漢字書体「龍爪」で組まれている。「龍爪」はもともと木版印刷のために彫刻された中国・南宋の四川地方の刊本の書体である。機械彫りだが、その力強く端正な書風がよく出ている。

第1碑の裏面には、解説文が「蛍雪」と「ふみて」の組み合わせで組まれている。「蛍雪」はもともと中国・清代の官刻本の書体で、おだやかな書風である。「ふみて」は明治時代の手習い手本をデジタル・タイプとして再生した書体である。にくい組み合わせである。

第2碑は、北原白秋の作詞を地元の書家が揮毫したのだそうだ。表面に1、2番、裏面に3、4番が刻まれている。「守れ 訓の星と稲」と、子供たちに呼びかける。ここはやはり肉筆の暖かさがいいようだ。

第3碑の表面は、山田耕筰作曲の楽譜になっている。タイトルは「蛍雪」、歌詞は「ふみて」である。その裏面には「蛍雪」で「平成二十六年十月二十五日 伊米ヶ崎小学校」と組まれている。

伊米ヶ崎小学校は、現在では全校児童が100人にも満たない小さな小学校である。20年前に学校に森をつくろうということで「ふるさとの森」ができた。今では子どもたちが思い切り活動できる立派な森として脈々と受け継がれている。

そんな小学校の記念碑に、活字書体が使われることは光栄なことである。この碑は、今は紅葉をうつしている。冬には雪をうつして白くなり、春から夏には緑色に染まるだろう。四季折々に、末永く子供たちを見続けていくことを願っている。

 

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2015年

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京王電鉄高尾線高尾山口駅

高尾山口(たかおさんぐち)駅の駅名表示に「きざはし金陵M」が使われているとの情報があり、それでは行ってみようと思い立った。高尾山口駅は、京王電鉄高尾線の終着駅であり、高尾山へのアクセス駅である。1967年の開業から50年を経て、2015年春にリニューアルしたとのことである。
高尾山口駅のホームに降り立つ。駅のホームには杉材を多く使って、和の空間が演出されているようだ。案内板の「高尾山口」という駅名が目に飛び込んできた。すこし加工してあるものの、「きざはし金陵M」のようだ。

改札を出て、駅舎を振り返ってみる。この駅舎の設計を担当したのは世界的に有名な建築家の隈研吾氏だそうだ。木組みによるダイナミックな屋根は高尾山薬王院をイメージしたという。駅舎の外装、内装にも杉材が多く使われている。東京都指定天然記念物である「高尾山のスギ並木」にちなんだのだそうだ。

表玄関の「高尾山口駅」という看板は、近くから見るとカッティングはかなり粗いのだが、少し遠くから見ると「きざはし金陵M」をベースにしたものだと思われる。もうひとつの「高尾山口駅」という看板も同様である。

高尾や八王子の観光情報を手に入れることができる「高尾山口観光案内所・むささびハウス」も併設されており、その表示も「きざはし金陵M」だ。ガラス面で、しかも開店中で扉が解放されており、ちゃんとした写真が撮れなかったのがちょっと残念だった。

使われていたのはこれだけだが、こういった駅のサインに使われるとは想定していなかったので、とても嬉しく思った。活字書体は印刷物に限定されるものではないのだ。このような使い方が増えることも、これからの楽しみのひとつである。

せっかくだから、高尾山に登った。もちろんケーブルカーで。多くの登山客であふれていた。

 

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2019年

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風土形成事務所

デザイン・写真=中村将大

環境デザイナー・廣瀬俊介さんの主宰する「風土形成事務所」のサイン・デザインに「きざはし金陵M」が採用されている。事務所内外装設計は田賀陽介さん、サイン・デザインは中村将大さん。サインのほか、名刺や案内冊子にも使用されているそうだ。

廣瀬俊介さんについては、ブログ「東北風景ノート Tohoku Landscape Notes」にあるプロフィールを転載しておく。

廣瀬俊介

環境デザイナー(International ASLA)、専門地域調査士(日本地理学会)、風土形成事務所主宰、東京大学空間情報科学研究センター協力研究員。2014年3月まで東北芸術工科大学大学院デザイン工学専攻環境デザイン領域准教授。日本地理学会会員、東北地理学会会員、日本景観生態学会会員。東日本復旧復興計画支援チームメンバー。主著『風景資本論』。

「東北風景ノート Tohoku Landscape Notes」には多くの記事が投稿されている。その記事は、2013年からの廣瀬俊介さんの講演、発表などをまとめたもので、合わせてスライドも公開されている。

2015年7月以降の記事で公開されているスライド(注1)には、「きざはし金陵M」が使われている。ひとつの記事で数十ページに及ぶものがあるので、相当な数のページ数が「きざはし金陵M」で組まれている事になる。これはもう、[映像部門]で取りあげたいぐらいだ。

リリースされた活字書体が、どう使われていくのかについて関知することはできないが、どう使われているのかには興味がある。このようにスライドを公開していただけるのは嬉しいことだ。

注1:2015年7月以前のスライドには、おもに「花蓮華M」が使われている。