活字書体をつかう

Blog版『活字書体の花舞台』/『活字書体の夢芝居』/『活字書体の星桟敷』

『世界の民衆に』

正富汪洋の詩は、膨大な数にのぼる。五七調から、短い詩、長編の詩、散文詩、民謡調の詩まで、まことに多彩である。詩集『世界の民衆に』(新潮社、1924年)の序では、つぎのように述べている。

    序
 世界は餘りに晦い。我々は新愛國主義に覺醒し、世界改造の火を點じ、文明の大窓を穿つべきである。
 私は世界の民衆に訴へて、世界の一新を計りたい思想を抱持してゐる。これはその序曲とも謂うべきものである。
この集を、「世界の民衆に」「はるかぜの肌ざはり」の二に區分した。前者には、上述の思想的背景のある詩を收め、後者には概して、春の季候に關したものを容れた。一人でも多く讀んで呉れることを希望する。この集の製本が成つたら一部分の譯詩を附して先づ H.Wells 氏に献じたい。
  一九二四年冬      著者

 この詩集では、前半の世界改造の志を訴えた詩と、後半の叙情的な詩とが同居している。晩年には、平易で簡素な詩もみられる。
 おさななじみの竹久夢二ほどにはしられていないが、その実績は夢二にひけをとらないものである。夢二と遊んだ岡山県瀬戸内市国司ヶ丘に、汪洋の詩碑がたてられている。