活字書体をつかう

Blog版『活字書体の花舞台』/『活字書体の夢芝居』/『活字書体の星桟敷』

装丁部門 entry No.1–3

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2009年

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『【改訂版】書道技法講座』全20巻

 二玄社の『書道技法講座』は、独習者のための本格的な技法講座である。初版〈全50冊〉は1971年から刊行された。さらに新装版〈全50冊〉として1987年に刊行されている。

書を学ぶ者にとって、とても定評あるロングセラーである。私も初版と新装版をあわせて11巻を所有している。初版で所有しているのは『高野切第三種』、『高野切第一種』、『高野切第一種』である。新装版では、楷書の『九成宮醴泉銘』、『雁塔聖教序』、『顔勤礼碑』および『張猛龍碑』、行書の『集字聖教序』と『蘭亭叙』、隷書の『礼器碑』を所有している。また、和字書体「あけぼの」の資料として『粘葉本和漢朗詠集』を購入している。

この『書道技法講座』の改訂版〈全20冊〉が2009年に発売された。従来の特製下敷に加えて、筆の運びが一目で分かるというDVDが付録に加えられている。

このシリーズのジャケット、表紙、扉などに、「龍爪M」が使われていたのである。この馴染みのある書道のシリーズに、欣喜堂の書体が使われているのは感慨深いことである。

さっそく20冊のうちの『改訂版書道技法講座5楷書 多宝塔碑』(大平山濤編、二玄社、2009年)を購入した。初版、新装版と合わせて12冊となった。

なぜ「多宝塔碑」を選んだのか。じつは「龍爪M」のベースになった宋代の四川刊本『周礼』の字様は、顔真卿(709–785)の書風の影響を受けたといわれている。特に「多宝塔碑」は、752年の建碑で、後年のいわゆる「顔法」と称される書法が発揮されていないが、同じ顔真卿の「顔勤礼碑」よりも四川刊本の字様に近いと思われるのである。

二玄社の書道のシリーズに使われているうえに、さらに「龍爪M」のルーツというべき「多宝塔碑」に使われているのである。こんなに嬉しいことはない。そして「多宝塔碑」を学んでみたいと思った。

 

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2018年―2019年

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ゲゲゲの鬼太郎』〈講談社コミックス〉全13巻

デザイン=坂野公一

 漫画家・水木しげる(1922―2015)といえば、2010年に放映されたNHK連続テレビ小説ゲゲゲの女房」で、夫婦の暮らしぶりが描かれ爆発的なブームを巻き起こした。

水木しげるは、太平洋戦争の激戦地で左腕を失いながら九死に一生を得て帰還、戦後は貸本漫画家となり、『ゲゲゲの鬼太郎』『河童の三平』『悪魔くん』とヒット作を続けて発表。日本を代表する漫画家となった。

少年マガジンコミックスとして新書サイズで甦った『ゲゲゲの鬼太郎』(水木しげる著、講談社、2018年―2019年)。全13巻のうちの第1巻には、1965年に『墓場の鬼太郎』として連載された「地獄流し」「猫仙人(全二回)」「手」の4話が収録されている。そのころ小学生だった私は少年マガジンを読んでいたのだが、残念ながらまったく記憶がない。当時の少年マガジンには『8マン』や『巨人の星』が連載されていて、貪るように読んだものだが……。

別冊少年マガジンに掲載された「鬼太郎の誕生」「牛鬼対吸血鬼」「ねこ屋のきょうだい」の3話には鬼太郎の出生の秘密が明かされている。中学生になっていたので、これは読んでいなかったかもしれない。「へ~、そうだったのか」と思いながら新鮮な感じで読む事ができた。

このコミックスのタイトルは、少し加工されているものの、まさしく「KOくらもち銘石B」が使われている。さらに表紙や扉、目次に至るまで「KOくらもち銘石B」で組まれているのだ。

『墓場の鬼太郎』として世に出た1965年に、南京市郊外の象山で小さな墓誌銘が出土した。『王興之墓誌』(341年)である。この裏面には『王興之妻宋和之墓誌』(348年)が刻まれている。夫の王興之の柩の右に合葬されているということだ。この「王興之墓誌」と「宋和之墓誌」を原資料として制作したのが漢字書体「銘石」である。

1965年に出土した墓誌銘をもとにして2012年に制作した漢字書体「銘石」が、同じ1965年に登場した漫画を2018年に発売された復刻版のタイトルに使われているのである。

 

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2020年

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『特装版 活版印刷日月堂』全6巻

デザイン=斎藤伸二(ポプラ社デザイン室)

ほしおさなえさんの川越を舞台にした小説『活版印刷日月堂』シリーズ(ポプラ社)は、川越の小さな活版印刷所の若き店主・弓子さんとお客さんとの交流の物語である。

ポプラ文庫の『活版印刷日月堂』シリーズは、第1作の「星たちの栞」から始まり、「海からの手紙」、「庭のアルバム」、「雲の日記帳」と続く。さらに番外編として「空色の冊子」と「小さな折り紙」が発売された。川越を舞台としていて、活版印刷が取り上げられている。すべて購入した。

第1作を読んだ後、物語の雰囲気を味わってみようと思い、設定された場所に行ってみたこともある。小説の中の「活版印刷日月堂」は、「川越のメインストリートから仲町の交差点を左に入って鴉山神社のはす向かいの白い建物」という。川越にはよく行くが、鴉山神社の周辺には初めて訪れた。

2018年2月16日に開催された「ほしおさなえ先生トークショー&サイン会」(學のまちkawagoe主催)というイベントにも参加した。櫻井印刷所社長の櫻井理恵さんと川越スカラ座の舟橋一浩さんとの鼎談で、とても興味深い内容であった。櫻井印刷所は立地として活版印刷日月堂を思わせる印刷会社であり、川越スカラ座は小説に登場する映画館のモデルとなっている。

2020年4月に、版型も四六変型判(194mm×128mm)となり、ルビを追加して子供も読みやすくなった『特装版 活版印刷日月堂』が発売された。文庫版で全6巻を揃えていたのだが、特装版も欲しくなった。というのは、ジャケットに「KOきざはし金陵M」が使われていたからである。

活字に詰まった〔想い〕は、

時をこえて必ず届く――

本文書体が好みではなかったのでどうしようかと悩んだが、結局買ってしまった。文字通りのジャケ買いである。

漢字書体「金陵」の原資料は、中国・明代に南京国子監で刊行された二十一史のうちの『南斉書』である。我が国では、川越藩主の柳沢吉保の計画により江戸長谷川町にあった松會堂松會三四郎によって覆刻出版された。「金陵」が川越を舞台にした小説のジャケットに使われることに巡り合わせを感じた。