活字書体をつかう

Blog版『活字書体の花舞台』/『活字書体の夢芝居』/『活字書体の星桟敷』

typeKIDS Seminar 01「宋朝体と元朝体」まとめ

typeKIDS seminar
第1回 宋朝体元朝(陳起の陳宅書籍舗・余志安の勤有書堂)
話者:今田欣一
日時:2014年10月12日(日)13:00−15:00
場所:新宿区・榎町地域センター 小会議室

6月の「moji moji Party No.7」では現在取り組んでいることがあまり話せなかったので、typeKIDS の時間を半分ほど借りて話しました。今回は「漢字書体二十四史」のうちの「宋朝体元朝体」について。

欣喜堂で制作している宋朝体元朝体。このうち四川宋朝体「龍爪」(左)は日本語書体としてすでに販売していますので、今回は次期制作予定の宋朝体「陳起」(中)と、現在進行中の元朝体「志安」(右)についてお話ししました。
小さな勉強会なので、プロジェクターなどの設備をつかわず、ホワイトボードだけを使うことにしました。展示説明会のような感じです。


簡単な概要の説明
まずは、中国の歴史のおさらい。今回のお話は「唐」からはじめて、「北宋」、「南宋」、「元」まで。

初唐の楷書体の代表とされている「九成宮醴泉銘」(632年)と、それに影響を受けたといわれている北宋刊本の『姓解』を比較してみました。

国立国会図書館所蔵の北宋刊本『姓解』(1038−1059)。初唐の欧陽詢(557−641)書風による字様だといわれます。


宋朝体「陳起」について
南宋(1127−1279)の都、臨安(現在の杭州)には多くの書坊が建ち並んでいました。国力の衰えた時期にも、臨安の街ではまだ活発な商業活動が行われていました。そのなかでも、陳起の陳宅書籍鋪が刊行した書物は注目をあびました。

陳起の陳宅書籍舗による『南宋羣賢小集』(1208−1264)。陳宅書籍舗が臨安城中の棚北大街にあったことから、その刊行物を臨安書棚本といいます。陳宅書籍鋪では、整然として硬質な字様を完成させました。詩の選集を多数刊行したことで知られます。陳起は才能に恵まれながらも無名だった民間の詩人たちと親交を結び、『南宋羣賢小集』を編纂、刊行しました。

『唐確慎公集』(中華書局、1921年)は上海・中華書局聚珍仿宋版活字で組まれています。中華書局の聚珍倣宋版活字は、陳起の陳宅書籍鋪による字様を源流としているようですが、いっそうの直線化がすすんでいます。

現在のデジタルタイプでの宋朝体(中国では仿宋という)のひとつ、「方正仿宋」。中華書局の聚珍倣宋版活字の系統に属する書体だと思われます。

このように宋朝体は現代でも継承されていますが、欣喜堂では、もういちど陳宅書籍舗の臨安書棚本字様に立ち返って、筆法・結法を分析したうえで、「陳起」という宋朝体を制作する予定です。

元朝体「志安」について
元(1271−1368)は、漢民族圧迫政策により書物の出版にはきびしい制限が加えられましたが、それでも福建地方の民間出版社では多くの書物を刊行しています。余志安の勤有書堂のほかにも、虞氏の務本堂、劉氏の日新堂、呉氏の徳新堂なども知られており、同様の字様になっています。

余志安の勤有書堂による『分類補註李太白詩』は、李白(701−762)の作品集の現存する最も古い注釈書で、全部で25巻あります。李白は盛唐期のもっとも著名な詩人ですね。

宋朝体「陳起」とペアになる書体として、制作しているのが「志安」です。宋朝体元朝体の関係が、なんとなくですが欧字書体におけるローマン体とイタリック体に当てはまるのではないかと思っています。もちろんまったく無関係なのですが、私にはそのように感じられたので。なにか新しい使い方ができるのではないかと密かに期待しています。
とにかく元朝体はあまりなじみがないですよね。刊本字様としては存在するのに、活字書体としての元朝体をみたことがありません。だからこそ作っておきたいと思っています。
現在、「志安」は第1段階の制作が終わり、最初の修整をすすめているところ。完成までには修整を繰り返さなければなりませんが、typeKIDSメンバーだけに全字種を初公開しました。



ひととおりの説明の後、すべてのファイル資料を手に取って見てもらいました。コピーですが、ある程度のページ数があるので、全体的な雰囲気もわかりやすいのではないかと思います。